染み込む一期一会

世の中の仕組みの難しさにちょっと疲れた私は、とりあえずおいしい食べものを作ったり売ったりすることなら大きな間違いにはなるまい、という社会的意義として安全そうな飲食系というジャンルに首を突っ込む。

 

とはいえ、そんなことは頭の片隅にあったという程度で、率直にはカッコいいカフェで働いてみたいなー、というミーハー気分で地元で話題のカフェで働く。

 

接客・販売業は思いのほか楽しかった。たくさんのことを学ばせてもらったのだけれど、いちばん衝撃が大きかったのは「一期一会」ということだ。

 

毎朝掃除をし、毎日お客様をお迎えし、コーヒーを運び、サンドウィッチを作り、食器を洗い、最後の片づけをする。天気が違ったり、テーブルや椅子の配置を変えたり、飾る花を変えたり、目立つところに置く本を変えたり、毎日全く同じ日はなくささやかに変化し続けているけれど、毎朝掃除をし、毎日お客様をお迎えし、コーヒーを運び、サンドウィッチを作り、食器を洗い、最後の片づけをするのは変わらない。「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」と、どんなに心を込めて言っても、それはカフェの風景として扱われる場合がほとんどだ。

 

そんな中で、お客様が私に対して「人として」話しかけてくださることがある。「おいしかったわ、ありがとう」。それは、ものすごくうれしくて、衝撃だった。

 

自分は他のお店に行って、おいしかった、と思っても店員さんになにも言えないし、まともに目を合わせることだって恥ずかしいくらいだったのだ。でも、言わなければスタッフにはわからない。そして、その時の感想を言うチャンスは本当にその時だけなのだ。

 

おいしい、よかった、と思ったら、その時にちゃんと言わなくちゃもったいない。と、本気で思った。

 

「一期一会」なんてよく言われるし、言葉上の意味はわかるけれど、深く実感として自分に染み込んだのは、お客様からあたたかい「一期一会」の経験をいただいたからだった。